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大阪高等裁判所 昭和57年(ネ)2253号 判決

控訴人 合資会社 山本商店

右代表者無限責任社員 山本勤

右訴訟代理人弁護士 神垣守

同 岡田丈二

被控訴人 神戸豆腐油揚生産協同組合

右代表者代表理事 村上正光

右訴訟代理人弁護士 高谷一生

主文

原判決を次のとおり変更する。

昭和五二年七月二九日開催の被控訴人組合臨時総会においてなされた控訴人を除名する旨の決議は無効であることを確認する。

控訴人が被控訴人の組合員であることを確認する。

右二項の決議が存在しない旨の請求は棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

《省略》

理由

一  控訴人が、被控訴組合に加入しその組合員であったこと、及び、被控訴組合から昭和五二年七月三〇日付書面で、定款一三条(1)、(3)に該当するものとして、控訴人を除名する旨の決議が同月二九日開催の臨時総会でなされた旨控訴人に通知されたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  (主位的)除名決議不存在確認請求について

控訴人は右除名決議は存在しなかった旨まず主張しているが、《証拠省略》によると、昭和五二年七月二九日開催の被控訴組合の臨時総会において控訴人を定款一三条(1)及び(3)に該当するものとして除名決議をしたことが優に認められ、これに反する証拠はない。控訴人の除名決議不存在確認請求は失当である。

三  (予備的)除名決議無効確認の請求について

控訴人は、昭和五二年六月二日、被控訴組合に対し、総額概算金五、八〇〇万円の支払請求とその支払をなすまで被控訴組合は控訴人に対し商品を売り渡し、その代金を右五、八〇〇万円と相殺する旨の内容を伴う即時脱退の意思表示をし、同月九日以降被控訴組合と取引をせずその施設を全く使用しなかったこと、及び控訴人が昭和五一年七月頃から訴外「八雲あげ」から一部商品を購入していたことは、いずれも当事者間に争いがない。

被控訴組合は、それらのことから控訴人が被控訴組合の定款一三条に定める除名事由中(1)の、「長期間にわたって本組合の施設を利用しない組合員、」及び(3)の「本組合の事業を妨げ、また妨げようとした組合員」に該当し、除名決議は有効である旨主張しているのに対し、控訴人はその除名事由に該当しないものとして無効確認を求めているので、その効力について検討することとする。

1  前記争いのない各事実に、《証拠省略》を総合すると、次の各事実を認定することができ、これを左右するに足る証拠はない。

(一)  被控訴組合は組合員五名を以って構成されていた豆腐、油揚の共同生産等を目的とする協同組合であって、控訴人は被控訴組合の全体売上の三五ないし四〇%に当る商品を購入していた。

(二)  ところが、組合員間において被控訴組合の生産する商品を公平に買受けようとの度々の申合せにもかかわらず、良い品を早い者勝ちに買いとるという状態が一向に改まらなかったため、やむなく控訴人は、被控訴組合の了解をうることなく、前記のように「八雲あげ」から商品を購入していたもので、その量は被控訴組合から購入していた量の約二〇パーセントであって、特にそのため被控訴組合の全体としての売上げが落ちたとは認められない。

(三)  従前の被控訴組合の定款は、組合員脱退の際は被控訴組合の資産全体についての持分金額を払い戻す旨定めていたところ、昭和五二年五月頃から、その払い戻しは組合員の出資額を限度とする旨変更するとともに、更に組合員が第三者から同種商品を購入することについても規制しようとする動きが生じ、同年六月三日開催の臨時総会において定款変更がなされることになったので、控訴人は定款変更は不利益であるので、変更前に脱退しようと決意し、その前日に前記のような内容の即時脱退の意思表示を被控訴組合にした。

なお、前記臨時総会においては、脱退の際の払い戻しは、出資額を限度とする旨定款変更がなされたが、第三者との取引規制についての定款変更はされなかった。

(四)  被控訴組合の定款では、組合員は事業年度の終り(毎年七月三一日)に脱退できるが、その旨の通知を事業年度の末日の九〇日前までにすることを要する旨定めているところから、被控訴組合は翌五三年の七月三一日までは控訴人の脱退を認めることができないとしたうえ、代金支払の保障のない限り五二年六月九日以降商品の売渡しは全面的に打切る、売掛残代金は同年七月二五日までに完済すること、同年九月に開催予定の通常総会までに残代金の金額が納入されない場合は控訴人の除名を議件として上程する旨の昭和五二年六月四日付書面を控訴人に送った。

右書面を受取った控訴会社代表者は、弁護士の神垣守に相談したところ、控訴人の即時脱退の意思表示は定款に違反し無効である旨教えられた。

(五)  そこで、控訴人は即時脱退等の意思表示は無効であることを前提として被控訴組合から商品の購入を続けていたところ、同年六月九日に被控訴組合から予告どおり商品購入の申出を拒否された。

控訴人はなお引続き一〇日、一一日にも被控訴組合に商品購入のため赴いたが、いずれも取引を拒否されたので、それ以降控訴人においても商品購入を申出ることなく、結局六月九日以降被控訴組合との取引は行われなかった。

なお、控訴人において、即時脱退や相殺の申入れを白紙に戻すとか、新たに購入する商品代金は従前どおり支払うとか、ということは、被控訴組合に対し明言していなかった。

(六)  その後控訴人は被控訴組合の請求に応じ、売掛残代金合計四六九万二、八七九円の内金二九一万二、六八六円を同年六月一五日に、内金七八万〇、一九三円を同年七月一八日に、残り一〇〇万円を同月二五日に支払い完済した。

2  以上の各事実を踏え検討するに、除名処分は組合員に対する極刑であるから、除名事由に該当するか否については、たんに外形的、形式的にのみ判断すべきものではないことにかんがみると、先ず、控訴人が昭和五二年六月九日以降被控訴組合と取引をしなかったことは、被控訴組合が控訴人との取引を拒否したことによるものであることに加え、前記のように売掛残代金を控訴人は請求どおり完済していることに徴すると、相殺の申入れを白紙状態に戻す等明言しなかった点、控訴人においても適切な処置を欠いていることを考慮しても、なお被控訴組合定款一三条(1)の「長期間にわたって本組合の施設を利用しない組合員」に該当するものとはいえず、また、即時脱退、金員支払要求、相殺等の通告を控訴人がなしたことについても、控訴人においてもその後も即時脱退を前提に金員要求を繰り返すとか、相殺を理由に売掛残代金の支払に全く応じないという態度をとっているならばともかく、たんに無効な即時脱退等の通知をしたことのみでは、同条(3)の除名事由である「本組合の事業を妨げ、または妨げようとした組合員」とみることはできない。

なお、「八雲あげ」からの控訴人の商品購入も組合員間の早い者勝ちという不公正な取引状態に端を発したものであることを考慮すると控訴人のみを非難することは当をえず、その量も被控訴組合から購入している量の二〇パーセント程度に過ぎないうえ、控訴組合全体としての売上額にさしたる影響を及ぼしているとは認められないことに徴すると、この点もまた前記(1)(3)の除名事由に該当するものとは認められない。

よって、除名事由に該当する事実がないのにかかわらず控訴人を除名する旨決議したものであり、その決議は無効といわざるをえない。

除名決議の無効確認を求める控訴人の(予備的)請求は理由がある。

四  組合員であることの確認請求について

被控訴組合は、控訴人において前記即時脱退の意思表示をしたものであるから、定款の定めるところにより翌事業年度の末日である昭和五三年七月三一日に控訴人は被控訴組合を脱退したことになったので、控訴人は現在被控訴組合の組合員でない旨主張している。

しかしながら、控訴人の即時脱退の意思表示は前記のように定款変更により生ずる控訴人の不利益を免れようとする特別な目的のためになされたものであることに徴すると、即時脱退の意思表示が翌事業年度末における脱退をも意図しているものとは解せられず、その意思表示は全体として無効であるといわざるをえないので、被控訴組合の右主張は採用できない。

従って、控訴人が被控訴組合の組合員である旨の確認を求める控訴人の請求は理由がある。

五  よって、控訴人の本訴請求中、除名決議不存在確認の請求は理由がないが、除名決議無効確認と組合員たる地位の確認の各請求は理由があるので、すべての請求を棄却した原判決をその旨変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条但書を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 乾達彦 裁判官 緒賀恒雄 馬渕勉)

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